「我慢」と「忍耐」の違い
前回の記事「忍耐が楽の先行投資」では入江光海さんの忍耐の重要性を紹介しました。その文中には我慢と忍耐が混在しましたが、そもそもあなたは「我慢」と「忍耐」の違いを考えたり、どこかで耳にされたことはありますか?
私はこの本に出合うまでは、同じような意味合いで用いていました。
著者は太田哲也さんで、本のタイトルは「生き方ナビ」(2005年に発行)。いささか古いですが、2005年までの彼の経歴を紹介します。
『1959年に群馬で出生。大学卒業後1982年にレースデビュー。F3000、マツダ・ワークスドライバーを経て1993年からル・マン24時間耐久レース、全日本GT選手権にフェラーリで出場、 "日本一のフェラーリ遣い" の異名を取られます。
1998年に富士スピードウェイで行われた全日本GT選手権第2戦で多重事故に巻き込まれ、瀕死の重傷を負われます。23回に及ぶ手術・リハビリを繰り返しなんとか復活。
2005年現在は執筆活動、自動車評論家、講演、レースなど多岐でご活躍』
この本は彼が事故を起こしどん底から復活した経緯が綴られます。項目ごとに彼がどのように考えたら生きやすくなったかがリアルに描写され、とても勇気づけられます。ゆえに現状に不安や不満を抱える人に特におすすめしたい一冊です。
さてこの本の中で太田さんが「我慢」と「忍耐」の違いに触れています。
太田さんは事故を起こし病院で治療・リハビリを受けるとき、多くのファンから手紙を通し "がんばれ" という激励の言葉をもらいます。しかしそのとき、当の太田さんは十分にがんばっていました。ですのでそれが逆に重荷に感じます。そんなとき太田さんはある人から「我慢」と「忍耐」の違いを聞き、それまでの重荷が氷解するように、凝り固まった考えが柔らかくなり、現状を受け入れられるようになったそうです。
ある人から言われた言葉。
「我慢は現状否定であり、消極的な受け身の姿勢です。ですから我慢には限界があります。ところが忍耐には限界はありません。なぜかというと忍耐の忍の字はもともと「ごんべん」がついていて「認める」が語源です。目の前に起こっている現状をありのまま受け入れることが忍耐なのです」
by 太田哲也著「生き方ナビ」より抜粋
「我慢」は現状を受け入れないのに対し、「忍耐」は現状を受け入れます。平たく言えば「我慢」は現状否定、「忍耐」は現状肯定。ゆえに「我慢」は人や環境のせいにしますが、「忍耐」にそれはありません。もちろん「忍耐」にも多少は人や環境のせいにする部分はあると思いますが、主は自分原因説になっている点がポイントです。
本記事で一番申し上げたいことは「忍耐」の「忍」の字には「認める」が語源になっていて、認めさえすればそこに限界はないという視点です。ということは事故や病気、好ましくない現象が原因ではなく気持ちが原因ということ。実際に五体不満足の方でも自己破産した人でも復帰・再起する人はたくさんいらっしゃいます。
昭和の哲人 中村天風氏も「人生は心一つの置きどころ」を教訓の中枢に置かれます。誰でも不幸な現象は体験したくないもの、ですがもしそうなってしまったのならいかに1秒でも早く現状を受け入れるか、そこがその人の未来の伸びしろを左右させます。
そして「忍耐」に限界はないというのは、忍耐には現状を受け入れる分、未来を内包させられます。その内包された未来が現状に前向きさを生み出します。一方「我慢」は現状を受け入れないため、未来が入る余地がありません。現状を受け入れるということは呼吸で言えば吐き切れる状態。吐き切ればあとは自然と吸う方に向かいます。
「忍耐」により現状を受け入れ目線が前を向けば、そこに晴れやかさを纏(まと)います。周りはきちんとそれを察知し、自然と応援したくなるのもの。逆に現状を受け入れない「我慢」体質の人は周囲を受け入れないため、せっかくの応援も閉ざす方に向きます。そもそも周囲もその人を応援したいと思わないでしょう。
忍耐に限界はないということは、可能性や幸福が青天井ということ。その現状とのギャップがその人の生命エネルギーとなり、その生命エネルギーが行動力を引き起こします。
「人生の幸福は、現在の生活程度自体よりはむしろその生活の方向が上り坂か下り坂か、上を向くかで決定されるものである。つまり、人の幸福は、出発点の高下によるものでなく、出発後の方向のいかんによるものだ」
お金持ちや健康が即幸福をもたらさないことは、私たちも知っての通りです。お金持ちでも健康でも不幸な人はいくらでもいます。本多静六氏が「人生即努力、努力即幸福」と言われるのはそういう理由です。
本記事を通し、あなたが積極的に「忍耐」を買われれば、「忍耐」がもたらす幸福は意のままにあなたの手中に収められます。ぜひその幸福を大事に味わい、次の幸福につなげていただきたく思います。そのようなプロセスを踏めば、逆に「忍耐」が愛おしく、幸福の源であるかのようにも思えるかもしれません。
私も毎日のルーティーンとして朝と夜に水のシャワーを浴びることを10年以上続けていますが、どんな寒い日でも浴びた後の爽快さは気持ちも体温も温かくしてくれます。おかげで長年苦しんだ「しもやけ」も治りましたし、風邪もまったく引きません。
大事なことは認め受け入れる「忍耐」を気持ちに持ってくること。何も四方八方を対象とする必要はありません。意図せぬことが起きたとき、何かに挑戦したいとき等に本記事を活用し、前向きに広大な精神で臨んでいただけたら、私も嬉しく思うしだいです。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。