「距離思考」と物理学
前回、総合格闘家 青木真也さんが、"ほどよい距離感に身を置くことこそ良好な人間関係を保つ秘訣" とご著書「距離思考」で言われているというお話をしました。
本日はその「距離思考」を物理学の視点で考察します。
まずあなたは「素粒子」と言う言葉を聞かれたことはありますか? 物理の中でも量子論(量子力学)でよく用いられる言葉です。
素粒子は物質を構成する最小単位の粒子ことで、原子を構成する陽子・電子・中性子などがそれにあたります。この世界のあらゆるものは素粒子によりできています。
この素粒子の世界では、2つの物体のあいだに、ある力が働いていて、それを「相互作用」と呼びます。「相互作用」は、もっと簡便に言えば「作用・反作用の法則」です。
その「相互作用」は、素粒子同士がボールを投げ合うことで成立し、例えば原子核の陽子と中性子を繋ぐ力を「核力」と言いますが、「核力」では陽子と中性子が「中間子」という同じボールを投げ合っています。この発見をしたことで、1949年にノーベル物理学賞を受賞されたのが湯川秀樹博士です。
ここからが本題です。
この素粒子間同士が同じボールを投げ合うことで「相互作用」が成立するわけですが、実は粒子間同士の距離間も重要なのです。
どういうことかというと、素粒子同士が遠すぎると近づこうとして"引力"が働き、近すぎると今度は遠ざかろうと"斥力"が働き、ちょうどよい距離に落ち着き安定するようにできているのです。このちょうよい距離感に落ち着こうとする働きを「原子間力」と言います。
ありとあらゆる物質を素粒子レベルまでミクロに覗くと、どの物質を構成している素粒子も、素粒子同士が同じボールを適切な距離感で投げ合っていることがわかります。
ここで、素粒子同士の営みを人間関係に置き替えて考察してみます。
"同じボールを投げ合う" というところでまず、次のことが言えます。
「波長が合う者同士が惹かれ合う」
"適切な距離感に落ち着き安定する" というところで、次のことが言えます。
「波長が合う者同士でも、距離感が大切になる」
いかがでしょうか。
あくまで私なりの考えで、例えになります。しかし私たち人間もミクロに突き詰めれば、すべて素粒子でできています。ゆえに、素粒子のしくみが人体ひいては、人間関係に作用を及ぼしてもなんら不思議ではないと思います。
もう少し深堀りします。
「波長が合う者同士が惹かれ合う」といっても、例えば職場、同じ波長や気の合う人ばかりで構成されているわけではありません。そんな人たちともうまくやっていかないといけないですし、初対面で自己紹介から人間関係を構築する秘訣も教えてもらいたいものです。
そんなとき、一般的に言われる方法がとても有効です。それが「共通の話題」。素粒子同士は同じボールを投げ合うと言いましたが、そのボールを「共通認識、共通の話題」とみてみるのです。
そうすれば同じボールを投げ合えるわけですから、過去の体験を振り返っても、共通の話題があれば話がはずんだり、少なくとも話題に困ることはなかったはずです。
先日紹介した経済評論家の勝間和代さんも、以前の動画で、とにかく共通の話題を見つけ出すことが、関係構築に有効という話をされていました。そのために勝間さんは「天気」の勉強をし、天気に相当詳しくなったそうです。理由は初対面の人ととのとっかかりに「天気」の話題は自然だからです。そして天気の話題である程度話がはずめば、次の共通事項も自然と見つけやすくなります。
話しを戻します。
職場の人間関係は、少なくとも共通の話題(仕事関係)はあるため、それ以外の共通の話題や認識を増やせられれば、応分に"その人"のことを好きになれる(認められる)要素も増えると考えます。
よく「接触回数が多くなるほどに、好印象を持つようになる」と言われますが、接触回数に比例して、共通の話題や共通認識が見つかるからでしょう。
最後にこちらも見ておきます。
「波長が合う者同士でも、距離感が大切になる」
共通の話題や共通認識が見つかり、仲が良くなったとしても、距離感が適切でなければ、関係はうまく築けないということ。青木さんが言っていたことそのものです。
青木さんは著書で、現在別居婚状態であることを告白されましたが、同棲をせずに結婚し、"こんな人とは思わなかった" と失敗したケースはよく聞きます。それを教訓に、結婚前に同棲を勧める親御さんもいるほどです。
話しをまとめます。
素粒子同士の営みを人間関係になぞらえれば、基本、波長の合う者同士が惹かれ合い、その良好な関係を維持するのに、距離感が大切になるということ。
波長というとわかりにくいですが、具体的には共通の目的、共通の話題、共通の性格、共通の考え方、共通の認識とご理解ください。
初対面以外の人間関係は、基本、共通の"何か"はあるはずなので、あとは共通事項をできる限り増やすことで良好性のアップを図りつつ、適切な距離感を見極める、そのような感じがベターです。
初対面ではまずもって共通事項を探し(波長を合わせ)、その共通事項でボールを投げ合うことで関係を構築し、少しずつ話題を拡張させるなかに、さらなる共通事項を見つけていく・・、そのような感じがベターです。
最後に「呼吸を合わせる」ことや「話すペースを合わせる」ことも、波長を合わせるうえで重要なファクターとなります。物理学では「固有振動数」といってすべての物質・物事には固有の振動数(周波数)があると言われるからです。
どれだけ話題が共通でも、どれだけ距離感が適切でも、呼吸の速度や話すペースが違えばキャッチボールの円滑さは薄らぎます。私も毎日電話の仕事をしていますが、ときどきお客さんで、相槌を入れるタイミングが微妙な方がいらっしゃいます。このようなケースも、私の体験的に間違いなく会話がしづらくなり、会話そのものの質が低下することは否めませんので、一つご参考にしていただければと思います。
「距離思考と物理学」
かなり私見を交えましたが、あなたはいかがお感じになりますか?
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。