「アンダーマイニング効果」
「アンダーマイニング効果」とは何でしょうか?
日本語では「過正当化効果」「抑制効果」と呼ばれ、内的な達成感や満足感などを得るために自ら行っていたことが、お金など他人から報酬を受けることで、「報酬をもらうこと」が目的にすり代わり、本来の内的な動機が失われることを言います。私は「抑制効果」という言葉がイメージと合致します。
「アンダーマイニング効果」は心理学者のデシ(Deci,E.L.)氏とレッパー(Lepper,M.R)が行った実験で明らかになりましたが、その前に「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」の理解をしておきます。
まず「動機づけ」について、心理学用語で「行動を起こさせて、目標に向かわせる心理的な過程のこと」を指し、「モチベーション」とも言われます。
動機づけには「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」があります。内発的動機は興味や探求心、達成感や満足感など、内面的な動機のことです。外発的動機は、お金や物などの報酬や、他人からの評価や罰など、外からの働きによって生じます。内発的動機づけは人間の内側から、外発的動機づけは他人からの干渉によって起こります。
実験内容は以下の通りです。
大学生を2つのグループ(ここではAグループとBグループとします)に分け、それぞれにパズルを与えて解いてもらいます。
① 1回目の実験では、AグループとBグループにパズルを解いてもらう。
② 2回目の実験では、Aグループにはパズルが解けたら報酬を与えると告げて、解けたら報酬を与える。Bグループには何も告げず、報酬も与えない。
③ 3回目の実験では、AグループとBグループにパズルを解いてもらう。報酬はどちらにも与えない。
さて、実験結果はどうだったでしょう?
なんと2回目の実験で報酬をもらったAグループは、3回目の実験であきらかにモチベーションが下がってしまいました。ではBグループは? Bグループは2回目の実験と3回目の実験でモチベーションの差異は見られませんでした。
これはいったい何を表しているのか?
それは2回目の実験で報酬をもらったAグループは、本来純粋にパズルを楽しめるモチベーション(内発的動機づけ)を持っていたにもかかわらず、報酬をもらってしまったがために、パズルをする目的が報酬の有無(外発的動機づけ)にすり替わってしまったのです。よって3回目の実験で、報酬がもらえないとわかるや否や、モチベーションが喚起されなくなりました。
これはある意味"洗脳"のような印象を受けます。しかしこの手の話は日常でよく起こります。下の参照記事では「アンダーマイニング効果」を防止する策として、まずは「アンダーマイニング効果」が起こる原因を整理し、それを3点に紹介します。
・行動の目的が「報酬をもらうため」のものになる
・他者から強いられていると感じる
・ノルマや締め切りを意識する
この3点の共通事項は、報酬、強制、ノルマなどいずれも「外発的動機づけ」があてがわれる点にあります。例えばあなたが外回りの営業パーソンだとします。起床時から"今日は10件の飛び込みをするぞ"と意気込み出社したものの、朝礼時に上司から"今日は必ず10件は回るように!"などとかぶせられるケースです。内発的動機づけが外発的動機づけに上塗りされ、強制的にモチベーションが「外発的動機づけ」にすり替わった形です。
本来 人は内発的動機づけをモチベーションとしたい生き物です。それを前提に考えると、外発的動機づけに上塗りされてしまうと、内発的動機づけがどこかに行ってしまい、外発的動機づけの有無や程度でモチベーションが左右されてしまいます。
先のパズルの実験のBグループのように…です。この「アンダーマイニング効果」は私もとても身に覚えがあります。私の両親は私が小中学生のときです、テストの点数でお小遣いの有無や程度を決めました。詳細は忘れましたが、90点以上で500円とか、80点以上で300円のような感じです。そうすると、お小遣いがもらえなければ、勉強をする気が起こらなくなるという可能性が出てきます。
記事では「アンダーマイニング効果」を防止する策として次の2点を紹介します。
・努力や過程を言葉で褒める
・自己決定感を高める
この2点の共通事項は、「内発的動機づけ」を褒め促す点にあります。人は結果につながらなくても努力そのものを褒められれば、また自分なりに工夫したり改善したりして頑張ろうと思えます。また部署の責任者に抜擢されても、裁量権が微量であれば、努力という名の「内発的動機づけ」も微量になってしまいます。しかし裁量権もそれなりにもらえれば、"自分なりにこうしてみよう"という「内発的動機づけ」が刺激されます。
最後に私から一言。
記事には載っていませんが、「外発的動機づけ」は決して悪者ではないということです。なぜなら金銭でも物品でも、魅力的な「外発的動機づけ」は、行動化の要因になり得るからです。その行動化の中で「内発的動機づけ」が生まれ育まれることもあるでしょう。私の小中学生の例でいえば、「最初はお小遣い目的で勉強したが、途中で数学の楽しさにハマってしまい、逆にお小遣いなどどうでもよくなるほどに、数学を勉強するようになった」などです。
成功した起業家なども似たようなことを言われます。「最初はとにかく稼ぐことに躍起になったが、稼げるようになると、社会貢献に関心が出てきた」などです。
最初は「外発的動機づけ」がモチベーションでも、どこかのタイミングで「内発的動機づけ」が原因のモチベーションにすり替わるという逆のパターンもあるということです。そのことを踏まえ、対象ごとに定期的に「今現在、どちらの動機づけのモチベーションなのか」を省みる「内省」こそが、最も大事なことのように思います。
あなたはいかがお感じになりますか?
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
引用・参考記事