「健全財政」はもう古い⁉
第2次安倍内閣の「アベノミクス」の指南役を務められた、いわゆるリフレ派の急先鋒とも言えるイエール大学名誉教授 浜田宏一さんが、2020年12月4日号のPRESIDENTに記事を投稿されています。
内容はアベノミクスの3本の矢の2本目「機動的な財政出動」をより積極的に行うことが、現政権のスガノミクスに要求されるというものです。なぜかと言うと、現在はデフレ下にあり、供給より需要が追いついていないからです。
例えば昨年に全国民に一律10万円を配布した特別定額給付金や持続化給付金、そして時短営業に協力した飲食店への協力金は「財政政策(財政出動)」に当たります。このように企業や国民に直接的にお金を回す政策を財政政策といい、その量が足りていないから、国民はお金を使おうとしないわけです。
アベノミクスでは、歳出にあたる「財政出動」を消極化し、プライマリーバランスの赤字幅を減少させてきました。このような取り組みを財政再建と言い、一般的には褒められる行為とされます。
しかしアベノミクスの指南役を務めてきた浜田宏一さんは、2本目の矢「機動的な財政出動」が今一つ行われなかったことを認め、スガノミクスではそこをてこ入れすることが、デフレ脱却の道であると説かれます。つまりプライマリーバランスの赤字幅を減少させることにとらわれれば、財政出動を控えめにしなければならなくなり、それは需要の刺激にはなりえず、デフレ脱却を遠のけてしまうということです。
しかし浜田さんはMMT論者ではありません。財政政策に関してはMMTの主張と同様になりますが、インフレが起きたときに単純に増税すれば済むという解決策は現実的ではないとされます。そこのところの食い違いは置いておき、大事なことは、目下デフレの状況で、財政再建などとプライマリーバランスにとらわれることは、時代遅れであると喝破されていることです。浜田さんは言われます。
「予算収支は常にバランスが取れている必要はないというのが世界の通説に変わりつつある。特に、インフレ率がゼロに近く、金利がGDP成長率よりも低い日本では、適度の政府赤字が現在世代だけでなく将来世代のためにも有益なのである」と。さらに続きます。
「コロナ危機が世界の需要を減退させ、GDP成長率を低下させる今、それを一時的にしのぐには政府支出が特に必要である。均衡予算への見当違いな固定観念のために、税制支出を避けることは非人道的であり、国民経済全体にも害を及ぼす」と。
先に浜田さんはイエール大学名誉教授と書きましたが、東京大学名誉教授でもある、とても権威のある方です。ふつうはそんな権威のある方が、自身が指南したアベノミクスを訂正に走ることなど滅多にありません。
2020年9月16日に内閣参謀参与を退職され、これまでの(アベノミクスの)歩みを振り返るのと同時に、浮かび上がってきた反省点を今後のために生かそうと、ある意味権威を逆手に取り、発言をなさっているのかもしれません。アベノミクスに一定の功績があるだけに、その姿勢は逆に説得力が増します。
アベノミクスの功績は、1本目の矢「大胆な金融緩和」により、500万人の雇用を生んだこと、リーマンショック後の円高を解消したことが挙げられます。確かにこの2点はとても大きな功績です。その流れで財政出動を積極的にし、かつ2019年の消費増税を行わなければ、2021年の今ごろは、本当にインフレターゲットの2%は達成できていたように思います。
そうなれば、500万人の雇用を生んだと申しましたが、非正規社員の賃金上昇のフェーズも訪れたことでしょう。リフレのシナリオでは「最初の雇用は非正規社員から入るが、デフレの脱却と共に賃金の上昇が可能になる」というものだったからです。
後日談ですが、実は安倍首相は元財務官僚の高橋洋一さんと、第一次安倍内閣のときから懇意にされていたため、上記のリフレのシナリオは(高橋洋一さんの教えにより)完璧に頭に入っていたそうです。しかしそれでも財務省を完全に敵に回すことができず、消費増税を譲歩、インフレ目標が未達に終わったことを残念がっていたと言われます。(高橋洋一・田中秀臣著「日本経済再起動」より)
2021年2月現在、1月7日に発出された2回目の緊急事態宣言の延長が決まって数日が経とうとしています。特別定額給付金の再給付はあるのでしょうか? 再給付にこだわらず、今こそ困っている飲食店や個人等に手を差し伸べなければ、デフレ脱却は遠のく一方です。
財務省寄りの麻生財務大臣には正直何も期待はできませんが、それでも最低限の「財政出動」は行っていただきたいと願います。また権威ある浜田宏一さんのような先生方が、どんどん「財政出動」の大切さを発言される機会が増えることを望みます。
「健全財政は」はもう古い?
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引用・参考記事