「短距離走」を繰り返す
前回の記事『行動経済学「双曲割引」』のつづきです。
「双曲割引」とは、人間の「遠い将来は待つことができるが、近い将来は待つことができない」という心理を表したものでした。
私流に言い換えれば次です。
・遠い将来は臨場感が薄いゆえ、現段階では合理的な判断が可能となる
・しかし近い将来は臨場感が今日に近づくほどに強くなり、合理的な判断ができなくなる
そういうことでした。
無論、個人差はあり、まったく双曲割引が起こらない人もいることでしょう。しかし私を含めほとんどの人は、誘惑に弱く、何かと理由をつけては先延ばしにする傾向をもつと思います。
そこで本日は、”どうしたら「近い将来」において、目の前の誘惑に負けずに、目標達成に自分を向かわせられるか"、そこに迫ります。
心理学ジャーナリストの佐々木正吾さんは、その回答として、「大局的な視点を持つこと」「今我慢すれば、後でもっと大きな成果が出ることを、記録として積み上げること」の2点を挙げられます。しごくごもっともです。
しかし本日は佐々木さんの対策ではない「短距離走を繰り返す」を紹介します。紹介されるのは、ジーエルアカデミア(株)代表の塚本亮さんです。塚本さんは高校時代の問題児から一念発起し、同志社大学に合格、ケンブリッジ大学で心理学を学ばれ、現在は経営者兼作家として活躍されます。
塚本亮著「心の教科書」(2019年12月発売)
この本の中の一項に「短距離走を繰り返す」があります。
解説に短距離の具体的なスパンは載っていませんが、私は1日の中にも、何度も「短距離走」を設けることが大事と考えます。また走り終わればきちんと自分にご褒美を与えるか、褒めてあげる行為が、「短距離走」の繰り返しに不可欠に思います。
例えば会社に通勤する際に、家から最寄り駅に着いただけでも"立派"と評価するのです。そして電車に乗り会社の最寄り駅に着いたらまた褒める、最寄り駅からオフィスに入館してもまた褒める、といった具合です。
褒め過ぎでしょ!と言われるかもしれませんが、実際に外に出れば今の季節 寒くなりましたし、雨ならなおさらしんどいです。満員電車も苦痛でしょう。それを自然とはいえ 凌(しの)いだわけですので、とりあえず無事に凌げたことを評価するのです。
オフィスに着けば、家からオフィスに到着した労(ねぎら)いとして、カフェオレでもプレゼントします(私がまさにそれです)。
そうやってこまめに自分で自分を評価してあげるクセは、自分との付き合いで非常に重要だと思います。そこに目標をセットするなら、例えば電車の中で英単語を10個覚えるとしたら、10個覚えられても、たとえ5個であっても、取り組んだ自分をまず褒めます。
今回のテーマは誘惑に打ち勝ち、目標を達成すること(双曲割引の罠に陥らない対策)にあるため、目標計画を細かく刻み、そのスパンを走り抜き、走り抜いた暁には、都度都度きちんとご褒美を与える。ご褒美がなければ大袈裟なくらいに自分を褒める、その繰り返しの勧めです。
ポイントは「短距離走」にあるのではなく、短距離走のあとの「ご褒美」または
「称賛」にあります。これは塚本さんの意図とは異なりますが、私が本記事で言わんとしたいのは、そこ(ご褒美・称賛)です。
もう一つ、本記事で申し上げたいこと、それは「目標レベル」です。これは塚本さんも言われていることですが、俗に「フロー」と言われる状態にもっていくコツです。「フロー体験」を提唱したアメリカの心理学者 ミハイ・チクセントミハイは、目標レベルを「難しすぎず、全力で取り組めば達成できる」に設定することを勧められます。
つまりは、「簡単ではなく、難しすぎでもない、ちょうど手の届くか届かないか」のレベルがフロー状態に入りやすいと言うわけです。
・「短距離走」を繰り返す
・完走後は必ず自分に「ご褒美」か「称賛」を与える
・短距離にセットする目標は、手の届くか届かないかのレベルに設定する
最後にもう一つ、"「短距離走」がすべて"というマインドを持つことです。
長距離走のスパンを仮に今日(1日)とし、短距離走のスパンをとりあえず10時~10時半(30分)とします。私はこの10時~10時半(30分)が1日の"すべて"と思って生きています。おそらく実際もその通りだと思います。1日は30分がいくつも重なって出来上がります。そして目の前の30分をしっかりと認識し大事に扱うことで、そのはずみで次の30分も同様の姿勢を煥発できると考えます。
どうしたら目の前の30分を大切に扱えるか?
それは目の前の30分とそこにセットした目標とは、1日どころか、人生の中で一期一会と思うことです。その掛け替えのなさは、目標を強く持てば持つほど認識でき、逆に目標をもたなければ認識できないかもしれません。
二度と同じシチュエーションは訪れないため、そのシチュエーションと目標のリング付けが「一期一会」という意味です。
また何かの理由で目の前の30分が有効活用できなかったとしても、心機一転、次の30分を大切に扱います。なぜなら次の30分(と目標のリンク付け)とも一期一会だからです。前の時間に後悔しては、今の30分に失礼です。つねに目の前の30分には心を広げて感謝で対峙したいものです。
無論、目の前の時間の30分は一例です。5分でも1分でもかまいません。フィットする間隔は個人差がありますし、そのときの体調や目標、状況によっても変わります。
大切なことは目の前の「短距離走」を1日の、いや人生の"すべて"と思って真摯に取り組むこと。
まとめます。
・「短距離走」を繰り返す
・完走後は必ず自分に「ご褒美」か「称賛」を与える
・短距離にセットする目標は、手の届くか届かないかのレベルに設定する
そして
ときに人間は非合理とわかっても、臨場感の強さが合理性をスポイルし、非合理な選択を取ってしまいます。それを「双曲割引」の罠といいました。
その罠に引っかからないように、「短距離走」が"すべて"と、走っている自分をどれだけ好きになれるか、それが分水嶺で、自分を好きにさせる秘訣は「短距離走」の後のご褒美と称賛です。
自分を好きになれれば臨場感はそこに帯びます。
あなたはいかがお感じになりますか?
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。