「能力の輪」
前回、前々回とウォーレン・バフェット氏の言葉を紹介しました。彼の言葉は、今の時代にそぐわない、彼だから成し得た内容も多い反面、十分に今も通用する考えも多いと思い、本日もお届けします。
「最も重要なのは、自分の能力の輪をどれだけ大きくするかではなく、その輪の境界をどこまで厳密に決められるかです。自分の輪がカバーする範囲を正確に把握していれば、投資は成功します。輪の面積は人の5倍もあるが、境界が曖昧だという人よりも裕福になれると思います」
上述も彼を知る人の中では有名な言葉です。1970年代からアップルやマイクロソフト、インテルが急成長を見せ、その背後にはグーグル、アマゾンなどが控えていました。
たくさんの投資家がデジタル情報革命に未来を馳せ、それらの企業群に投資をし、それが1990年~2000年に一気に過熱を帯びました。それがITバブル。そんな中、バフェット氏はどの株を買ったのか?
1988年にコカ・コーラ社を買い始め、1996年には保険会社ガイコを買収、1998年にはエグゼクティブ・ジェット(ビジネスジェットの提供や機体管理を行う会社)を買収しました。なんとIT企業とは関係のない会社ばかりです。このときほど彼の投資哲学が世に知れ渡ったことはなかったのではないでしょうか。
そんなバフェット氏にイギリスの新聞「サンデー・タイムズ」はついに物を申しました。2000年のある日、「テクノロジーを無視するバフェットはチンパンジー並み」、そう書き下ろしたのです。2000年にはすでに「オマハの賢人」と尊敬の念を持たれていたバフェット氏になんとも辛辣な書きぶりです。
彼の投資哲学(銘柄選び)は本当に時代遅れだったのでしょうか?
記事が出てしばらくしたとき、誰もがご存じ、ITバブルがはじけました。先の大勢の投資家は損を被る一方、バフェット氏個人の株価は一気に急騰し、先の辛辣な疑いは雲散霧消、「オマハの賢人」と称される所以をさらに世に知らしめる結果となりました。あのアマゾンの創業者ジェフ・ベゾズ氏もこのときに「だいたいウォーレンの言うことには耳を傾けなければいけないんだ」と尊敬の念を強固にしています。
バフェット氏は特にITバブルを予見していたわけではありません。単純に自分の能力の輪の中にIT企業が入っていなかっただけです。もう一度冒頭の言葉を見てみましょう。
「もっとも重要なのは、自分の能力の輪をどれだけ大きくするかではなく、その輪の境界をどこまで厳密に決められるかです」
そうです、自分(の能力の輪)に忠実なだけだったのです。彼はこうも言います。
「自分たちの能力の輪に、めぼしいもの(会社)がないからといって、むやみやたらに輪を広げることはしません。じっと待ちます」
「投資の世界には見送りの三振はありません」
自分が精通(熟知)している輪の中でしか勝負をしないという徹底ぶりが伺えます。しかし輪の拡大を否定しているわけではありません。輪の拡大にはこう言われます。
「私だったら一業種ずつこつこつと勉強し、最終的には5、6業種についてある程度深い知識を持ちたいと考えます」
輪じたいを徐々に拡大することは大事と考えています。彼は自分の理解できない(輪の外の)会社に投資して利益を得ても、なんら自身の喜びに寄与しないばかりか、むしろ混乱しかねないと思っているのでしょう。
彼がコカ・コーラ社に投資をしたのも、ソフトクリームのデイリークイーン社を買収したのも、未来永劫にずっと安定成長ができると見込んだからです。いっときの株価を狙ってのキャピタルゲインではなく、10年・20年・30年と保有する中での利益こそ「利益の最大化」と確信されています。その確信がI当時のT企業には見込めませんでした。
話を少し変えます。
私が彼の投資哲学で思ったことは物理で言われる「エントロピー増大の法則」です。エントロピーとは無秩序の度合いを示す物理量のことで、「エントロピー増大の法則」とは「自然は、常にエントロピーが小さい状態から大きい状態に進み、つまり秩序から無秩序の方向に進む」ということです。宇宙が膨張するのもこの法則が働いているからと言われており、身近なところでは、部屋を掃除や整理をしなければ散らかってしまうのと似ています。注意散漫と言われたりしますが、人の注意も集中も放っておけば散漫の方に働きます。
そこで「能力の輪」も同様なのかもしれないと思ったしだいです。あらゆる分野で進歩をする現代で、能力の輪を見極めなければ、浅いところで広くなるだけで、果たして浅いところで結果を出せるのでしょうか?
バフェット氏のバリュー投資で言えば、まず企業価値を割り出し、その価値が今後も安定成長を生むかどうかを確認し、生むと判断できれば、なるべく割安な価格で買収(投資)をします。その一連の流れは言葉にすれば簡易ですが、実際は膨大なデータを集め、業界や同業他社の相場・動向をわかっていなければできません。
ホリエモンこと堀江貴文さんがどれだけ「多動力」と推奨されても、浅いところで動き回っているだけの人を誰も信頼は寄せないと思います。就職にしても、浅いところで転職を繰り返している人を面接官は信頼をするでしょうか?不動産投資で銀行から融資を受ける際も、必ず勤続年数を聞かれます。
動くことや転職じたいを悪く言うのではなく、自身のキャリア形成として、深くなることの信用でビジネスや人間関係が成立するという観点も厳然として在することを申し上げたいだけです。
例えば私は現在40歳ですが、40代の10年間を、ただ動き回って終わりにしていいのか、それとも何かを深掘って、その深堀った輪の中で何かの勝負に出るのか、私は後者を取りたい者です。
時代によって"これからはスペシャリストが求められる"とか"ゼネラリストが求められる"などと言われたりしますが、私はスペシャリストがまずあって、それを軸に少しずつ輪を広げつつ、ビジネスモデルやインフラを柔軟に活用するスタイルが現代に最も適合し、またこれからも適合するように思います。
「 能力の輪」
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