白隠禅師と「肯定感」
10年以上前に出版された本に「投資の極意は感謝の心」があります。著者はさわかみ投信会長の澤上篤人さんと2016年にお亡くなりになった個人投資家で著名だった竹田和平さんです。
本の中身は対談形式になっていて、投資というより人生談に近い内容です。その中で竹田和平さんが白隠禅師のくだりを話されます。前回お届けしたダニエル・カーネマンが提唱する「経験の自己」と「記憶の自己」の「記憶の自己」と関連付く内容と思い、本日は竹田さんのお話を紹介します。
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白隠禅師という人がおもしろいことを言っていますよ。眼前に現れるものは全て自分が意味づけなかったら意味がない。意味づけたものは受け取れる、ということを言っているんです。つまり「世間がそう言っている」なんて言っている人はインチキに惑わされている(笑)。自分の眼前に見えるものは、自分が意味づけるまでは何でも中立なのであって、意味がないんです。注目して初めて動き出す。そういう絶対真理があるわけです。
つまり「あなたにいくら悩み事があっても、それはみんなあなたが意味づけたことが現れている。あなたの目の前に起こっていることは、全てあなたが意味づけたもの。誰もあなたにしたんじゃない。あなたが意味づけたことが返ってきているだけだよ」ということです。
言い換えれば、幸せになるためには、どう肯定の意味をつけるかですよ。全てに肯定の意味をつけた人はいつも幸せですよ(笑)。どう肯定的に受け止めるかによって、なにごとも肯定的な現象になるわけです。極楽への道が近くなって来世はもっと素晴らしいものになる。
全部肯定。天は肯定してみろと問答を出しているんですよ。肯定に捉えてみろ。否定すると苦しくなるぞ。どんどん苦しくしてやるからな。肯定に捉えたらどんどん楽しくしてやるよ、と。自分次第でどちらにも転がるんですよ(笑)。
(同書より抜粋)
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竹田さんの言われることは、昨今の自己啓発業界では目新しいことではありません。「現実をどう受け止めるかがその後の生き方を決める」とか「事実は一つ、解釈は無限」などよく言われることです。作家のひすいこたろうさんは「ものの見方検定」というタイトルの本まで出されています。
しかし自分の落ち度や準備不足、不摂生等を原因とした現実に解釈の余地はありません。ただ後悔と反省があるだけです。しかし自分なりにそのような原因を排除した結果なら、竹田さんの言われる「全部肯定」の発揮甲斐(がい)が出ます。
ある物事に肯定感を持てた瞬間から、対処や改善、結果を出すための取り組みが前向き化します。"この物事があったから〇〇な現実が享受できたのだ" と言わしめるだけのモチベーション、イメージが腹底からもたげます。それが先日にお話した「記憶の自己」の始まりです。肯定感から「記憶の自己」が始まるということです。
素直に肯定感を感じるためにも、極力 ふしだらや不摂生、軽率な言動や準備不足は避けたいものです。人間は全方位に神経を配らせることは難しいため、時にケアレスミスは犯しますが、かつてのスティーブジョブズ氏の服装がそうだったように、普段から大事なことにウィルパワーを充てるための(それ以外への)システマティックな仕組みづくり、習慣化は見習いたいところです。
白隠禅師が言われたことも、竹田さんが言われたことも、お説ごもっともですが、現実的にそれを図れるのは、自分の落ち度が少なく、運の支配が大きい場合だと私は思います。自分の落ち度を少なくするには、2度と同じミス(失敗)をしない改善策をいろいろな対象(事象)に横展開することです。(例えばよくスマホを置き忘れて家を出るクセがある人は、玄関のドアの持ち手に付箋を貼っておくとか、否が応にも目の付くところに示すことが私のお勧めです)
「記憶の自己」が自分の幸せに大きな貢献を果たすなら、その「記憶の自己」の担い手は「前向きな気持ちと前向きな思考と前向きな行動」です。その扉は繰り返しになりますが、肯定感から生まれるものと思い、それを助けてくれる名言を紹介します。
「災難に逢う時節には災難に逢うがよく候
死ぬ時節には死ぬがよく候
これはこれ災難をのがるる妙法にて候」
by 良寛
"災難に遭ってよかった"と心底思えることは、これほど人を清々しくすることもないと思います。この感覚が腹落ちするには、輪廻転生のようなカルマの理解(信仰)が必要になるかもしれませんが、すっきりとしたリスタートに、この名言は非常に有効に思います。私もこれまで大小にわたりこの名言に救われています。
運に支配されないところは、事前準備で結果を出し、運に支配されるところは白隠禅師の肯定感、竹田和平さんの肯定感、良寛さんの肯定感をお借りましょう!
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
引用・参考文献